スピリチュアルケアについて(1)
2015年05月26日
こんにちは。
まだ、5月だというのに暑い日が続いています。
以前、緩和ケア科で働いていた時に、緩和ケア教室という患者さん向けの勉強会を開催しておりました。私は、主にこころのケアを担当しておりましたが、そこでお話した内容をご紹介します。
今日は「スピリチュアルペイン(霊的苦痛;spiritual pain)」とスピリチュアルケアについてです。
「スピリチュアル」という言葉を聞くと、なんだか宗教的だとか、怪しげなものを想像してしまいます。
スピリチュアルペインの話の前に、「緩和医療」についてお話します。
がんなどの重大な病気にかかった時に、さまざまな苦痛が生じます。苦痛はたった1つという訳ではなく、図のようにさまざまな問題からなり、全人的苦痛(total pain)と呼ばれています。
(1)身体的苦痛:頭痛や腹痛、歩きにくい、物がつかめないなど。
(2)精神的苦痛:これからどうなるんだろうという不安、病気のことを考えると落ち込んでしまうなど。
(3)社会的苦痛:医療費の問題、自分が入院している間家事や仕事は誰がするのかなど。
(4)スピリチュアルペイン:「余命がわずかしかないのに生きる意味が分からない」「死ぬのが怖い」「健康管理をしっかりしておけば良かったのに」・・・
「緩和医療(緩和ケア)」とは、手術、化学療法や放射線治療といった病気に対する直接的な治療と並行して行われる医療で、全人的な苦痛を取り除いていくことを目的としています。
かつては、「終末期医療=緩和医療」というイメージが強く、手の施しようがないから緩和医療を受けると考えている方が多かったと思います。そして残念ながら、いまだにそのように誤解している方々もたくさんいるはずです。
さて、スピリチュアルペインの具体的な表現をみてみます。
スピリチュアルペインは、身体の痛みとは異なるこころの苦痛ですが、不安や抑うつなどとは異なった苦痛であることが分かります。
スピリチュアルペインに関する研究はたくさんありますが、中でも村田先生の理論はもっとも広く受け入れられている理論の1つで、たいへん分かりやすいのでご紹介します。
まず、スピリチュアルペインとは「自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛である」と定義されています。つまり、がんなどの重大な病気になることで、命を落とすかもしれない(存在の消滅)、それから生きる意味がなくなる(意味の消滅)ということです。
そして、3つの苦痛に分類しました。
(1)時間存在:将来を失うことからくる、生きることの無意味さ、目的が持てないこと。
(2)関係存在:人から認められたり、人に何かしてあげることで保たれていた自尊心や自分の役割が、他者との関係を失うことで、失われてしまうこと。
(3)自律存在:自分で食事をしたりトイレに行けない、人の世話にならなければならないのなら、生きていても仕方ないと感じること。
健康な人は、普段から死、生には限りがあることを意識することはほとんどないと思います。また、自信満々でいる人は、人の助けを借りず自分の実力で今の地位を築いたと思うかも知れません。そして、お腹がすいたから食事をする、そんなの当たり前でしょと思うでしょう。
失ってみて初めて分かること、死を迎えるという大きな局面において、初めて気がつくことがたくさんあります。
青い空、暖かい陽のひかり、美しい草花、家族とのだんらん、昔よく聴いていた歌・・・
何気ない日常のほんのちょっとのことに、普段から感謝したり感動して生きていけたらと思います。
次回、続きをお話します。
☆ついこの間までちっちゃかったのに・・・☆