千代田区 御茶ノ水 神田 小川町の心療内科・精神科 駿河台こころのクリニック 薬漬けにされる? その2

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薬漬けにされる? その2

駿河台こころのクリニックのブログ

薬漬けにされる? その2

2015年02月18日

こんにちは。

昨日の続きです。前回、薬物治療への抵抗感についてお話してきました。
最大の理由の1つは、「薬漬けにされるのでは?やめられなくなるのでは?」という心配です。

ところで、「薬漬け、やめられなくなる」=「薬物依存になる」ということでしょうか?あるいは、=「飲み続けなければならなくなる」という意味でしょうか?

まず、「薬を飲み続けなければならない」ということについて考えてみます。
例えば、胃潰瘍という病気でみてみます。元々胃酸の分泌が多い体質だと、胃酸が胃壁を攻撃し続けますから、胃酸を抑える抗潰瘍薬を飲み続ける必要があります。もちろん、ストレスをためない、刺激物を控えるなど薬物治療だけで治すわけではありません。高血圧や糖尿病も同様で、これらの病気は脳梗塞や心臓病の原因になるのでしっかりとした治療が不可欠です。そして、いずれも慢性的な経過をたどる病気ですから、著しく病状が悪い時期を過ぎたのちも、再発予防の意味を含めて、どちらかというと薬を飲み続ける必要が出てきます。このように、飲み続ける必要のある薬は他にもあるのです。

睡眠薬や安定剤の作用をみてみましょう。単純に考えると、眠れないのは神経が昂っていることが原因で、神経を興奮させる物質が多い、もしくは興奮を鎮め眠りに誘導する物質の働きが弱いことが影響します。気持ちの落ち込みは、意欲、感情に関わるホルモンの不足です。そして、これらの不足したものを補い、働きを整えるのが睡眠薬、安定剤の作用です。

不足しているものを補い、働きを整えるという作用は、他の治療薬ものと何ら変わりありません。そして、長期に服用する薬は他にもあるのに、睡眠薬や安定剤だけが悪者にされるのは、こころの病や治療薬に対する知識不足や偏見とも関係しているのだと思います。

今度は、「薬を飲み続けなければならない」理由について考えてみます。
もし、安定剤を長期に使用している方がいたとします。その理由として、いくつか考えられます。①病気の特性上長期服用が望ましい場合、②治療薬の効果が不十分なため治療が長引いている、③不安や不眠などの症状が現れる原因、つまり心配事などが解決していない、④処方薬依存、などです。

①について分かりやすい例は、認知症です。アルツハイマー型などタイプは様々です。現在のところこれを完治させる薬は、まだ開発されていませんが、進行を遅らせる効果のある薬があります。このように、慢性的な経過をたどる病気に対しては、長期的な薬物治療が必要と考えます。
一方で、入学試験のことが気になって眠れない日が続いている方に、睡眠薬を処方するとすれば、一時的なものとなるでしょう。

それから、こころの病はその人の本来の性格や行動パターンなどと結びついていることが少なくありません。
うつ病の症状が改善したのちも、悲観的な考えを持ちやすい、几帳面で完璧主義という性格で人一倍仕事を頑張り過ぎてしまうことが続けば、症状は再燃(再発)しやすくなります。これまで、怒りのコントロールでもお話したような「信念」に基づいた思考と行動パターンを変えていく試みを怠っていると、症状は慢性化し、薬が手放せないことになるかも知れません。

睡眠薬や安定剤には種類がたくさんあります。そして、最大何㎎まで使用できるという限界があります。症状に合わせて治療薬を選択しますが、初回投与量から始め、効果が不十分な場合、量を増やします。最大量まで使用したり、ある程度の期間の効果をみて、他の薬剤に切り替えます。睡眠薬の効果は、その日から現れますが、抗うつ剤などは効果が現れるのに最低でも2、3週間から1か月を要します。このように、治療薬の効果を判定するためには、十分な使用量と使用期間が必要です。

②のような状況になる原因として、服薬への不安から、薬を飲んだり飲まなかったりする、通院をやめてしまう、主治医に症状が正確に伝えられていない、などが考えられます。

次に、③についてです。例えば、指にとげが刺さって痛い時にどうしますか?
とげはそのままにして、痛み止めを飲むでしょうか。まず、痛みの原因となっているとげを抜くのが通常の対処法です。もし、とげを抜いても痛みが取れないとなれば、場合によっては痛み止めを飲むことはあるかもしれません。

こころの問題も同じです。もし、症状に結びつく具体的な原因があれば、その解決が先決、もしくは薬物治療と同時に取り組む必要があります。きっかけが大切な人との死別であるなど、元に戻すことのできない状況ももちろんあります。その場合、こころのケアは不可欠で、薬物治療は補助的な意味しかないかも知れません。
もし、ここで具体的な原因への対応やこころのケアが十分になされないまま、薬物治療だけで何とかしようとすれば、治療効果が不十分なまま、長期間服用することになるでしょう。

次に、④の処方薬依存です。
最近、薬物依存の原因薬剤として、アルコール、覚せい剤、危険ドラッグ、とともに処方薬が大きな問題となっています。
当科で使用される治療薬の中でも、特にベンゾジアゼピン系と呼ばれる種類の睡眠薬や抗不安薬にはある程度の依存性があります。 睡眠薬を長期に使用することで、薬を使わないと全く眠れない、効果が薄れてくるなどの状態になることがあります。

しかし以前、「寝酒がよいか睡眠薬がよいか・・・」でもお話ししましたが、長期間睡眠薬を飲んでいる方が、ある日突然ぴったり睡眠薬を使わず寝るというのは難しいですが、徐々に止めていくことは可能です。また、依存性の少ない薬剤に置き換えるという方法もあります。また、抗うつ剤、抗精神病薬と呼ばれる薬剤は、比較的依存性は少ないと言われています。

不安になった時に、抗不安薬を使用している人は、お守り代わりに薬を持ち歩いていたり、調子が悪くなるかもしれないと先回りして服薬をするあまり、薬の量や回数が増えていくことがあります。不安を感じるきっかけに始まり、マイナスの思考から、不安発作などに発展するとすれば、認知行動療法と呼ばれる手法などで思考の修正を併用することで、必要以上に服薬量が増えるのを抑えることができる場合があります。

依存のさらに細かい部分については、またいつかお話しようと思います。

薬を飲まないで生活できるのがもちろんベストだと思いますが、病気にはならずとも、誰でも年齢とともに体力、気力などの衰えは現れますし、体質も変化していきます。その時々の状態に合わせて、心身を整える1つの方法が薬物治療だと思います。

「最近、足腰が弱ってきた。だけど、散歩がしたい。じゃあ、杖をついて歩くか。」
杖を使うのと同じように、自分がやりたいこと、やらなければならないことを実行するために、薬の力を借りる。そう考えた方が、得られることが多いように思います。

また、指示に従って適正な使用に心がける、何かあればすぐに薬ではなく、その都度必要かどうかを吟味して使用すれば、依存性の問題もクリアできると思います。

長文失礼いたしました・・・

☆「なにかしら・・・」☆
☆「なにかしら・・・」☆